AIガバナンス構築支援を担当している佐久間です。Robust Intelligenceではこのたび、特に生成AIブーム以降の国内外のプロジェクト事例や研究成果をもとに作成した「AIガバナンスホワイトペーパー ver. 1.0」をリリースします。今回のポストでは、このホワイトペーパーの概要を解説します。
本文については、下記リンク先より無料でダウンロードいただけます。
AIガバナンスホワイトペーパー ver. 1.0 ダウンロードページ
ホワイトペーパーの全体像
本ホワイトペーパーでは、主に以下3点の事項を解説しています。
- 「AIリスク」の全体像と、それに関わる政策動向(1章〜2章)
- AIリスクを管理し、適切なガバナンスを行うために企業が検討すべき論点(3章)
- AIガバナンスにおいて有効なアプローチ(4章〜7章)
以下に、各セクションの概要を示していきます。
「AIリスク」の全体像と、それに関わる政策動向(1章〜2章)
AI活用にあたって企業が直面するリスクは、「品質面のリスク」「倫理面のリスク」「セキュリティ面のリスク」の3種類に分類されます。それぞれのリスクは、企業価値を毀損するような重大な問題に発展している事例もあり、生成AIの流行によってさらに複雑化・多様化しています。
AIリスクが認識される中で、各国政府も対策に動いています。アメリカ・ホワイトハウスによるAI開発者への働きかけやEUの「AI規則」など、アプローチは違えど各国でAIに対する規制は強化されつつあります。
AIリスクを管理し、適切なガバナンスを行うために企業が検討すべき論点(3章)
AI活用を進める中で、企業として検討すべき論点は多岐に渡ります。国内外の企業の事例や各種規制・ガイドラインから、特に重要なアジェンダとして「組織体制・人材育成」「企業内でのルールメイキング」「モデルの評価・技術的対応」が挙げられます(各論点の詳細はホワイトペーパー内にて記載)。
各論点について、一つの決まった正解があるわけではありません。企業ごとの組織構造や企業風土、技術的な基盤等により、あるべき対応方針は異なります。重要なのはAIリスクへ対処し、各種ガイドライン等で掲げられた価値を企業として実現することと、それを対外的に説明することです。
AIガバナンスにおいて有効なアプローチ(4章〜7章)
以上のように、AI活用のために企業が向き合うべき課題は多岐にわたります。その中で特に、リーディングプレイヤーが取り組んでいる重要なガバナンスモデルに「第三者検証」があります。これは、AIモデルの開発・運用に携わっていない外部の第三者によるAIリスク検証をAIガバナンスの中核に据えることで、リスク検証の客観性・網羅性を確保する考え方です。
次に、AIモデルのリスクを把握し、改善するための技術的なアプローチとしては、「テストベースアプローチ」が有効です。これは、主にAIモデルの開発時点で多様な種類のストレステストをAIモデルに対して実施し、出力を様々な指標で評価することで、モデルのリスクを特定する手法です。
参考: AIシステム実用化のためのTest-Drivenアプローチ
また、運用開始後のAIモデルを様々な環境変化に対して頑健なものにするためには、入出力を自動で検証し、問題のある内容をブロックすることも有効です。
今後AIを活用した価値創造を目指す企業は、こうした第三者検証も取り入れながらリスク管理を行い、それを対外的に示してトラストを確保していくことが求められます。AIの活用はもはや個々の部門/企業に閉じたものではなく、様々な社内外のステイクホルダーを巻き込んだコミュニケーションの中で進めていくべきものとなっています。
こうした動向を踏まえると、各種制度・ガイドラインで示されるような価値を実現するために業界横断のプレイヤーが協業するAIガバナンス・エコシステムの形成や、そうした取組を市場において浸透させるための公的な標準・仕組み作りが求められているといえるでしょう。
より良いAIガバナンス実装に向けて
本ホワイトペーパーに示す多くの論点は、様々な工夫をしながら各企業が今まさに取り組んでいる、完全な回答の存在しないものです。
何よりも重要なのは、まずAI活用とガバナンスが表裏一体であることを認識し、実際に対策を考え始めることです。本ホワイトペーパーが、そのような企業のAIガバナンス構築の第一歩のきっかけとなれば幸いです。
また、本ホワイトペーパーはver. 1.0としてリリースしているものであり、今後アップデートしていくことも想定しています。Robust Intelligenceとしても、みなさまのAIガバナンス構築の最適なパートナーとなれるよう、引き続き努力していきます。